48人が本棚に入れています
本棚に追加
譜面上にある最後の一音が空気に溶けて消える。僕は静かに演奏を終えた。いつの間にか、自分の頬に涙が伝っていたことに気がつく。今日は泣いてばかりだと思った。けれど、それは真陽も同じだった。僕らは互いに涙で濡れた瞳で見つめ合い、それからどちらからともなく笑った。泣きながら笑うなんて、どうかしてる。でも、こんな風に過ごせる時間は、これが最後になるかもしれない。そう思うと、持て余した感情をどう扱えば良いのか分からなかった。ぐちゃぐちゃになって、堪えきれなくなって。何も言葉にならない。もし正解があるなら、僕の命ごと彼女にあげるのに。
「なんで、真陽なんだ……」
思わず、そんな本音が口をついて出た。神様が本当にいるなら、僕がそいつを殺してやる。そうでもしなきゃ、納得ができない。彼女が死ぬことを、運命だなんて言葉で片付けられるほど、僕は優しくない。
ギッ、と、真陽が乗っている車椅子の車輪が小さく軋んだ。それからすぐに、彼女の手が僕の服の裾を掴む。真陽は何も言わなかったけど、まるでごめんと言うようなその仕草に、僕は益々涙が止まらなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!