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せっかく堪えていたものが、彼女の一言で呆気なく崩れていく。僕は唇を強く噛み締めた。
――生きてほしい。
その願いは、僕の願いでもあったから。だから、頷くしかなかった。真陽が満足そうに笑う。それが、僕が見た彼女の最後の笑顔になった。
翌日、彼女の母親から真陽の容体が急変したことを知らされた。それから一週間後、真陽は静かに息を引き取った。
***
葬式の日のことは、ほとんど覚えていない。
ただ、遺影に写る真陽の笑顔だけは、はっきりと覚えていた。不思議と涙は出なかった。現実感がない、というのが正しいかもしれない。周りからすれば、きっと薄情な人間に見えたことだろう。それくらい、僕は真陽の死を受け入れることができなかった。明日になれば全部悪い夢で、彼女がひょっこり僕の前に現れるんじゃないか。そんな馬鹿げたことを本気で考えていたくらいだ。それでも、さすがに一週間が過ぎる頃には、少しずつ真陽がいない現実を実感し始めていた。その度に僕は何度も泣いた。
四十九日が過ぎ、季節が春へと移ろい始める。真陽のいない日々が、少しずつ当たり前になっていく。そんな矢先だった。彼女の母親から連絡が届いたのは。
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