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ノートに涙の染みができる。僕はそれを胸に抱きながら、声を上げて泣いた。人前だというのに、そんなことを気にする余裕もなかった。真陽のおかげで、僕は随分と涙脆くなってしまったみたいだ。
でも、今はそれでよかった。
それでいいと思った。
***
高校を卒業して、僕は県外にある音楽系の専門学校に進学した。ギターを専攻するコースに進んだのは、真陽との唯一の繋がりを失いたくなかったからだった。
最初、僕が音楽で生きていきたいと両親に話した時、母は水月のことを思い出すから嫌だと猛反対した。そんな母に向かって、これまで傍観者だった父が「やりたいようにやらせてあげればいい」と、珍しく口を挟んだ時はさすがに僕も驚いた。その後は父の説得もあり、母も渋々ではあるが、僕の夢を応援してくれるようになった。最近は少しだけど、水月のことを自然に話題に出せるようにもなった。完全にとはいかないけど、家族の中で少しずつ、過去の痛みを思い出として受け入れ始めている。そんな気がした。
生きることは簡単じゃない。苦しいこと、辛いこと、悲しいこと。数えきれないくらいあるし、その全てがなくなることはないと思う。でも、苦しいからこそ、辛いからこそ、悲しいからこそ、人は前に進もうと踠くのかもしれない。
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