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「朔、次出番だって」
「……分かってる」
楽屋に響いた声に、僕はギターのチューニングをしていた手を止めた。顔を上げると、僕とは対照的な明るい髪色をした青年が立っている。昔から変わらない兄のような存在の彼は、僕を見て小さく笑った。
「ほら、アイツらもう円陣組み始めてるよ」
その言葉に、僕は「せっかちだなぁ」と苦笑する。僕はギターを抱えたまま、座っていた控え室の椅子から立ち上がると、傍らに置いていたイヤモニを耳に取り付けた。……その際に、右腕がギターのネック部分にカンッと触れる。真陽がかつて愛用していたギターだ。彼女の両親にお願いして譲り受けたそれは、今や僕の大切な相棒になっていた。今日は僕らのバンドがメジャーデビューして、初めてライブを行う日。真陽が、僕のすぐ傍で見守ってくれているような気がした。
「朔」
もう一度名前を呼ばれ、僕はギターから顔を上げた。
「今行く」
そう言って、彼のあとを追って歩き出す。ステージが近づくにつれ、観客のざわめきが大きくなる。
「朔くん」
ふと、あの柔らかな声が聞こえた気がした。僕は足を止めて振り返った。そこには誰もいない。代わりに僕を待つバンドメンバーの姿があった。
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