1

1/31
前へ
/270ページ
次へ

1

 空っぽだった。  誰かに誇れるような特技も、(すが)りたいと思える希望もない。こんな自分、早く消えてなくなってしまえばいいのに。  四月。高校二年目の春。  移ろう季節以外、何ら代わり映えのない放課後の教室で、僕はいつもと同じように、完全下校のチャイムが鳴るまで適当に時間を潰したあと、いつもとは違う路線のバスに乗り込んだ。  行くあてなんてない。ただ、唐突に思い浮かんだ衝動を、現実から逃れたいという欲求を、ひどく持て余していた。幸い、夕方の帰宅ラッシュが落ち着いた車内は疎らで、誰も燻っている僕の地雷に気づく乗客はいなかった。  ……だからだろうか。  ほんの少しだけ気が緩んでしまったんだと思う。  上手く隠していたはずの本心が溶け出すように、僕は無防備にも、偶然視界に捉えてしまった陸橋を見て、あそこから飛び降りたらきっと確実に死ねるんじゃないか、なんてことを考えてしまった。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加