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空っぽだった。
誰かに誇れるような特技も、縋りたいと思える希望もない。こんな自分、早く消えてなくなってしまえばいいのに。
四月。高校二年目の春。
移ろう季節以外、何ら代わり映えのない放課後の教室で、僕はいつもと同じように、完全下校のチャイムが鳴るまで適当に時間を潰したあと、いつもとは違う路線のバスに乗り込んだ。
行くあてなんてない。ただ、唐突に思い浮かんだ衝動を、現実から逃れたいという欲求を、ひどく持て余していた。幸い、夕方の帰宅ラッシュが落ち着いた車内は疎らで、誰も燻っている僕の地雷に気づく乗客はいなかった。
……だからだろうか。
ほんの少しだけ気が緩んでしまったんだと思う。
上手く隠していたはずの本心が溶け出すように、僕は無防備にも、偶然視界に捉えてしまった陸橋を見て、あそこから飛び降りたらきっと確実に死ねるんじゃないか、なんてことを考えてしまった。
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