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別に死ぬことが怖いとは思わなかった。むしろ、生きていることの方がよほど恐怖だった。何の目的もなく、日々をやり過ごすだけの毎日は、まるで地獄だ。いっそこのまま死んでしまえればどんなに楽だろう、そんな風に思ったことは一度や二度ではない。僕にとってそれは、食欲や睡眠欲と同じレベルの感情で、ごく自然なありふれた生理的欲求のひとつに過ぎなかった。有り体に言えば、僕は生きる屍みたいなもので、生きることへの執着はとっくの昔に手放していた。
たった十七年と二十日。
歴史的偉人の一人が、太陽の黒点が十一年周期で増減することを発見するまでに費やした時間と、ほぼ同じだけの年数。それなのに、僕は誰かに残せるものも、もちろん世紀の発明や発見だって、何ひとつ持ってはいなかった。毎日、生きることを諦め続けていた。
自分でも、どうしてこんなに空虚でいい加減なのだろうと、呆れる。頭がおかしい、馬鹿げているとすら思う。だけど、自分が生きてきた年数より、遥かに長い余生があることを想像すれば、正気でいられるほうがよっぽど不思議だった。
どうせ、明日も「生きている」なんて保証はどこにもない。もしかしたら、今この瞬間にでも事故に巻き込まれて、死ぬ可能性だってあるはずだ。――なのに、こんなふうに長い未来を想像して絶望する程度には、自分がこの先も「生きている」と無意識のうちに自惚れていたことが、なんだか可笑しかった。
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