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それなのに、電源を切るべきか否か、つまらないことを逡巡する自分に、愕然とした。この後に及んで尚、まだそんなふうに迷う余地があるのか、と。呆れるのと同時に、どうしようもない怒りと不安が、僕の心を沈めていく。底のない泥濘に落ちていくみたいで、胸が苦しい。
ドクドクと鼓膜を叩く鼓動も、意思に反して震える指先も。全部、自分のものじゃない感覚に吐き気がする。
縋るように掴んだ鞄の皺が深くなっていく様子を見て、僕は握り締めていた力を緩めるように、なんとか落ち着こうと息を吸いこんだ。それでも、鉛を飲み込んだ時のようなあの喉のつかえを、僕は上手に消化することができなかった。スマートフォンの液晶画面に表示されるであろうメッセージの相手を、このうえなく嫌悪していたからだ。
だったら、そのまま無視していればいいだけの話なのだが、精神衛生的にストレスを増大させる結果にしかならないことを、僕はこれまでの経験からすでに知っていた。これから死のうとしているくせに、今更精神面気にしてどうするんだって感じだけど、長年染み付いた悪癖を、そう簡単に変えられるほど僕は器用ではなかった。
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