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……まったく、とんだ呪いだな。
そんな皮肉めいた思いが心中を掠め、堪らずふぅっと息を吐きだした。それから徐に鞄の内ポケットへと手を伸ばし、スマートフォンを取り出すと、まだ何も映されていない真っ暗な画面にそっと触れた。液晶に文字が浮かぶ。案の定、連絡は母親からのものだった。
何時に帰ってきますか。
心配なので連絡をください。
たったそれだけの文面。それでも読むのが億劫だと感じてしまうのは、母の病的なまでの過保護さに原因があった。仕方ないと憐れむ気持ちも最初こそはあったものの、そういった気持ちはとうの昔に消え失せていた。
頼むから、ほっといてくれよ。
全身からそう叫び出したいほどの本音を、衝動のまま文字に打ち起こしてみるが、結局適当な言葉が見当たらず、
今から帰る。
と、非情になりきれない自分の甘さを飲み込んで、嘘だらけの言葉を母に返信した。すると、すぐに着信を知らせる画面が映し出され、反射的にもうこれ以上は構っていられる余裕がないと判断した僕は、今度こそスマートフォンの電源を落とした。
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