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それに二週間の間、幾度も斥候を送ったりしていたので、自分達が潜んでいることが相手に露見する危険性も高まっていた。このまま手をこまぬいて、この場所のことが相手方の耳に入ってしまえば、今までの苦労が水の泡になってしまう。
遅かれ早かれ、こちらから先手を打たざるを得なかった。
「トリスタン卿、ここはやはり私が」
ヴェルドレが熱のこもった声を上げた。顔を上げて彼を見た。何も恐れはない、そんな顔をしている。
返す言葉もなく、額に手を当てた。
「トリスタン卿」
ヴェルドレがせっついてきた。
「そう結論を急ぐな」
声を荒げた。ヴェルドレが不満げに眉根をひそめた。
実のところ、その申し出はありがたかった。
廃屋に皆を集めた後、街の四隅に火を放って混乱させてから、都の東側に囮の部隊を配置して敵方を引きつけてもらい、その隙に街に忍び込んで敵の帝を討ち取る、という策を話した。全員が賛成したものの、いざ囮役を誰にするかという話になったとき、皆が押し黙ってしまったのだ。そのとき唯一人、躊躇わずに志願してくれたのがヴェルドレだった。
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