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じっと彼を見た。その理由は言えなかった。個人的な感情以外の何物でもないし、それ以上に特定の誰かを優遇しているように部下達に思われたら、結束が瓦解することになりかねない。
唾を呑み、喉を湿らせた。
「私では力不足だということですか?」
ヴェルドレは息巻いていた。自分の力をみくびらないでくれ、そんな言葉にならないような想いが彼の全身から滾っている。
「この陽動は危険が大きい、そう簡単には決められない」
静かに言った。ヴェルドレ以外の全員が同意するように小さく頷く。
「ですが、誰かがやらねばならないのでしょう、そうであれば私が」
「そんなことは分かっている」
思わず声を荒げた。周りがびくりと肩をすくませる。
「ならば、なぜ下知を下さらないのです?」
ヴェルドレは一歩も引かなかった。思えば、アルベンヌを発った時もこうだった。あのときもこの若い騎士は、正しいことのために剣を振るうべきだ、と言い、止めようとする自分を振り切って出ていこうとした。それに自分は触発されたのだ。
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