第四十四話 無謀な賭け

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 ヴェルドレのことは信じていた。だが、万が一のことがあれば、亡きカミーユに申し訳が立たない。 「トリスタン卿、私は死など恐れてはおりません、今、我らが為すべきことは西の国の都を落とし、邪教どもの指導者を斬ることです、どうかご決断を」  どうか、ご決断を、ヴェルドレの最後の言葉が沈殿していた記憶を呼び覚ました。  ――今、味方の犠牲を減らし、この戦いに勝利をもたらすことができるのは我らだけと心得ます、どうかご決断を。  四年前、ディナダン卿が亡くなったあのコルヌの戦いで、当時第八管区隊にいた自分は、下知(げち)を破るか悩んでいたラヴィニス卿を促すそうと思い、そう言った。  あのときのラヴィニス卿も自分と同じだったのかもしれない。そうすべき、と頭でわかっていても、できないという苦しみを抱えていたのかもしれない。それでも、あのときラヴィニス卿は自分達に下知(げち)を下してくれた。立場が変わってから何年も経っていたが、こんなときになって相手の気持ちが染みるとは思っていなかった。皮肉なものだった。  肩の力が抜けて急に可笑(おか)しさがこみ上げてきた。口角が自然と緩む。
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