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あれから沖田は手慣れた様子でキッチンに立ち、手際よく夕飯を作ってくれた。
食卓に並べられた手料理は暁の好きなものばかりで、また先ほどと同じような「俺たちは恋人だったんだ」という思いが呼び覚まされる。
「ごめん、作ってもらっちゃって」
「いや全然。俺暁が美味しそうに食べる姿すごい好きだし」
「...なんかそれ照れるって。ほんとありがとね」
沖田が作ってくれた料理を手を合わせてから食べ始め、用意してもらった缶チューハイをちびちびと飲みながら会話を続ける。
暁が今一番知りたいことは、沖田がどういった人間なのかという至極根本的なことだった。
「あのさ、...沖田さんって何歳なの?俺と歳近いように見えるけど、落ち着いてるししっかりしてるし、実はもっと上とか?」
「はは、そんなふうに見える?一応暁とタメだよ。それに俺たち高校の同級生だし」
「え、高校!?...じゃあ付き合う前からも結構関係はあったんだ」
今の会話だけでもかなりの驚きだ。
沖田曰く、3年間クラスは違えど同じ高校に在籍していたらしい。
高校時代はそこまで関わりはなかったようだが、卒業後に沖田の職場でたまたま暁と再会する機会があり、そこで今の関係まで発展したとのことだった。
「....信じらんない。純愛じゃん」
「あはは、純愛って。...まあでも、たしかにそうかも。俺高校の時から暁のことずっと好きだったし。再会したときはもう運命感じたね。それに、俺が告白して暁がOKくれた時は死ぬほど嬉しかった」
「...そう、なんだ...」
嬉々とした様子でそう顔を綻ばせる沖田を見て、暁はなんとも言えない気持ちになる。
ここまで自分のことを好きだと言ってくれる人のことを忘れてしまっている自分自身が酷く冷たい人間に思える。
「...ねぇ暁」
「うん。どうした?」
「俺のこと、....好き?」
「....え、」
そんなことを考えて一人悶々としていれば、沖田はそう言って暁の目を真っ直ぐに見据えた。
その瞳には今まで見ていた優しさは見えなくて、目の奥に浮かぶ冷たい感情に思わずどきりとする。
有無を言わさぬような問い掛けに、暁は曖昧に頷いて見せた。
「...うん、...少なくとも、嫌いではないし、好き...かな」
「...そっか。まあ今はそう言ってもらえるとだけで十分かな。...これからも俺、暁の傍にいるからね。大好きだよ」
「....」
きっと俺の言葉は、今の沖田が求めていた答えとはかけ離れていた。
それは暁自身が一番感じていることだ。
もし自分が逆の立場だったとしたら───
そう考えると、今もこうして自分との関係を良好に築こうとしてくれている沖田には頭が上がらない。
一刻も早く思い出してやりたい。
心の底から、そう思った。
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