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「沖田?....あー、もしかして山中商事の沖田さん?」
「え、ああ。たしかに、言われてみればそうですね」
「たしかにってお前、あそこ荒井の営業先だろ」
「はは、そうでした。変なこと聞いてすみません」
怒涛の休日が終わり、今日は会社に出勤している。
もしかして他のことも部分的に忘れているのではないだろうか...と昨日まで不安を抱えていたが、そんな暁の心配は杞憂に終わった。
通勤経路も通勤先も会社の自分の席も、何一つ抜けることなく覚えている。
出社してきた上司に沖田のことを尋ねてみればそんな返答があって、暁自身にも思い当たることはあったためそこで会話は終わらせた。
山中商事。
それは暁の営業先である会社だ。
いつも話す担当者は別の人間だが、たしかに沖田とそこで会った記憶はある。
ただその時は高校の同級生だったなんて気付きもしなかった。
それに、それももう数年前、たしか入社したての頃だっから6年ほど前の話だ。
沖田は付き合って2年経つと言っていたが、付き合うまでの間も4年ほど関係性があったと言える。
そもそも暁の恋愛対象は女性であることは間違いない。
それでも沖田と付き合うことを選んだ自身の選択には、そこに至るまでの決定的な何かがあったんだろう。
「...まあでも、沖田さん優しいしかっこいいし、...普通に男でも惚れるよな」
脳裏に過るのは「大好きだよ」とストレートな言葉で自身に想いを伝えてくれた沖田のことで、会社のデスクで一人どぎまぎとしてしまった。
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