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あれから2週間ほどが経った。
変わったことは特にない。
会社も友人関係も今まで通り普通にこなせているし、沖田との関係も至極良好だ。
未だにスキンシップの部分ではどう接していいかわからないことはあるものの、少しずつ慣れていってくれたらいいという沖田の優しい言葉に暁は救われていた。
それでもやはり、そんなに悠長なことを言って沖田に気を遣わせ続ける気も暁にはさらさらなくて、今日もまた親交を深めようと沖田の家に行く約束をしていた。
「...暁!おかえり」
「...はは、ただいま。お邪魔します」
週末の仕事帰り、そのまま沖田の家へと帰る。
インターホンを鳴らせばすぐに嬉しそうに笑う沖田に出迎えられて、この笑った顔が好きだなと最近よく感じることを今日も思わされる。
今日はいつもの流れからしてそのまま泊めてもらうことになるだろう。
あの日から少し経って冷静になり、沖田の部屋を改めて観察してみたが、暁用の下着も部屋着も、それこそ箸や歯ブラシもしっかりと用意されていた。
それは自分達の以前の関係性を十分に物語っていて、それだけ良好な関係を築けていたんだという安心感もある。
「てか今日さ、一瞬会えたよね」
「...はは、やっぱ暁も気付いてた?俺手振ろうか迷ってやめたんだけど」
「当たり前じゃん、沖田さん目立つもん。てか俺も手振ろうか迷ってやめた!一緒じゃん」
今日の昼間たまたま山中商事に訪問する機会があり、そこで沖田を見掛けた。
直接の会話はなく、ただ同じフロアに居合わせただけだったが、沖田も暁がいたことに気付いていたらしい。
それだけでどこか嬉しい気持ちになり、それと同時に確実に沖田に気持ちが傾いていることも実感する。
「ねぇ沖田さん」
「うん?」
「...俺さ。...今なら沖田さんのこと、好きって迷いなく言えるよ」
「...え、」
「やっぱそういう運命なのかな?ちょっとアクシデントはあったけど、俺は何度でも沖田さんのこと好きになる。というか、ならざるを得ない?....なんて思っちゃったりして」
照れ臭さも相俟って冗談混じりに素直な気持ちを伝えてみれば、沖田はいつものような柔和な笑みを浮かべることなく押し黙る。
そんな反応をされるとは思っていなかった暁は内心慌てて、どうしたものかとその顔を覗き込んだ。
「...ごめん、沖田さん...俺なんかまずいこと...」
「...違う、...違くて、...」
「...え、うん」
「嬉しかったんだ、すごく。そんなこと、暁から言ってもらえるの、初めてだから...」
───初めて...?
沖田の言葉に一瞬違和感を覚えるも、それもすぐに掻き消される。
沖田におもむろに抱き締められたからだ。
「...え、っと...沖田さん...?」
「嬉しい、....本当に好き、...暁、好きだよ」
「...うん」
耳元で伝えられる甘い言葉に、脳が痺れるような感覚に陥る。
───直向きで健気で、どこまでいっても優しくて。
そんな沖田を、暁はまた好きになった。
「...俺も、沖田さんのこと好きだよ」
気付けばそう口にしていて、暁は照れ臭さから沖田の背中に腕を回し抱き締め直した。
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