03_関係の進展

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夕飯も風呂も終え、あとはもう寝るだけだ。 先に風呂から上がった暁がベッドの上でスマートフォンを弄っていれば、寝室の扉が静かに開く。 髪を乾かし終えたらしい沖田はにこりと微笑んでから暁の隣に腰を落ち着け、視線がしっかりと合わせられる。 暁から見る沖田は見た目も中身も完璧で、そんな男と自分は付き合っている。 そう思うと暁の心臓はばくばくと五月蝿くなり、なるべく意識しないようにと早々に布団に潜り込んだ。 「暁、もう寝る?」 「...うん。そろそろ寝よっかな」 「そっか」 暁の言葉に短く相槌が打たれ、次の瞬間には部屋の明かりが消される。 月明かりだけが僅かに漏れる静寂な寝室で、沖田が布団に入ってくるのを背中越しに感じた。 「...暁」 「...っ...、うん...どした?」 もう沖田も眠るんだろう、そう思っていた暁のすぐ耳元で沖田から不意に名前を呼ばれ、思わず体がびくりと震える。 2年も付き合っていたんだ、今更同じ布団に寝ることを意識する必要なんてない。 頭ではわかっていても、意識するなと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、今のこの状況を意識してしまう。 「...ごめんね、ほんとは嫌だったりしない?もし嫌なら俺ソファで寝るし」 「...は?いや、だめだめ。何言ってんの。嫌じゃないから...!ここにいて...」 「ほんと?」 「うん。....ほら、その....沖田さんのこと好きだなって自覚したら、妙に意識しちゃってるってだけだから」 慌てて背後を振り返りそう言葉を紡げば、思いのほか近いところに顔があってなおさら焦る。 それでも月明かりでぼんやりと照らされた沖田がくすりと笑うのがわかって、暁はその顔から目が離せなくなった。 「暁は素直で、かっこよくて、他の誰よりも優しい。こんな俺にも...」 視線を合わせたまま沖田はそう呟くと、ふいに頬に手が当てがわれる。 先ほどまで風呂に入っていたはずの沖田の手は既に指先が冷えていて、冷え性なのかなとぼんやり考えた。 「...暁、キスしていい?」 「...え..」 「キスしたい、俺...暁に触れたいよ」 切実すぎる問い掛けに、暁は言葉に詰まる。 それでもすぐに気を取り直して、暁は沖田の冷えた指先に手を重ねた。 暁が沖田のことを忘れてしまったせいで、ここまで沖田にはかなり無理や我慢をさせてしまったに違いない。 今までの関係性があったからこそ、今の他人行儀な接し方は沖田を無意識に傷付けてしまうことだってあっただろう。 そう思えばこうして素直な気持ちを伝えてくれたことすら嬉しく感じて、暁は小さく頷いた。 「...うん、いいよ。ごめんねいっぱい待たせちゃって」 「...っ...、...幸せすぎて泣きそう」 暁の言葉に沖田はそんなことを言い、次の瞬間には優しく唇が重ねられる。 薄くて冷たい沖田の唇も、自身の温もりでやんわりとぬくもりが伝わって、それもどこか心地良かった。 「...沖田さん、」 「...はあ、やばい、やばいね。...だめだ俺、ほんとに好き。...ずっとずっと、こうしたかった」 「...」 軽い口づけではあったものの、沖田のそんな言葉に自分がどれだけ沖田を待たせていたのかを実感する。 ずっとこうしたかった、 そんなことを、俺に思ってくれる人がいる。 今にも泣きそうな顔で素直な気持ちを吐露する沖田を見ていると、無性に愛おしくなる。 暁は沖田のほうへと体を向き直し、ゆっくりと腕を広げてみせた。 「沖田さん、おいで」 「...暁、いいの?俺..」 「いいの。俺がしたい、沖田さんが嫌じゃなければ」 「...っ...、」 そう声を掛ければ、沖田は遠慮がちに俺の腕の中に身を寄せてくる。 全身に伝わる熱に、暁はやっと沖田との心の繋がりを取り戻せたような気がした。
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