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暁の何かを思い出したような小さな呟きに、沖田は小さく微笑んだ。
そしてそのままぽんぽんと髪を優しく撫でられる。
慣れない同性からの行為に内心驚くが、もしかしたらこれも普段から行なっていたスキンシップの一つなのかもしれない。
そう考えると無碍にもできず、暁は何も言わぬまま沖田に視線を合わせる。
「...暁、昨日飲みに行くって言っててさ。いつもなら家に帰るとすぐに連絡あるのに、昨日はいつまで経っても連絡なかったから心配になって家行こうと思ったんだよね。...そしたら階段の下で倒れてるし、俺ほんとに心配したんだから」
「...じゃあその時に俺頭とか打ったんですかね...。何で沖田さんのこと覚えてないんだろ。....いや、でも、ほんと助けてくれてありがとうございました。それに迷惑も掛けちゃって...ごめんなさい」
伝えたいことも聞きたいことも、今の俺には多過ぎる。
とにかく助けてもらった恩があるからと、暁はそれだけはきっちりと伝えて、自分の不甲斐なさに少しだけ落ち込んだ。
「...てかさ、敬語はなし。なんか距離感じるし。俺のこと覚えてないのはすごい悲しいけど、今までの関係性は変わらないしさ」
「...え、....ああ、うん。....わかった」
「とりあえず今日はまだ休んでてね。俺少し出掛けるけど、いつもみたいに好きに部屋のもの使ってくれていいし」
それだけ言うと、沖田はすぐに部屋を出ていった。
急に一人取り残された部屋で、暁はぼんやりと自分の擦りむけた手に視線を落とす。
「...俺、ここ来るのも初めてじゃないんだ...」
何故沖田のことだけがぽっかりと記憶から抜け落ちているのか、その時の暁には考える余裕などなかった。
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