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少しだけ部屋の中を歩いて回り、最終的には玄関に向かう暗い廊下の先にトイレを見つけ用を足す。
独立洗面台すらない質素な自宅とは大違いだなと思いながらも手を洗い、ふと鏡に映る自分の姿を見つめた。
どこにでもいそうな男、まさに俺。
自身の変わらぬ姿に少しだけ安堵する。
ここ最近はかなり仕事が忙しくて、昨日は朝も昼も何も食べないまま飲みになんて行ってしまったから、あんな醜態を晒すことになってしまったんだろう。
記憶が飛ぶほど飲んで、しまいには階段から落ちて人に迷惑を掛けて...28歳にもなって何をやってるんだろうかと、暁は一人鏡の前で項垂れた。
そんなことをしていれば玄関から鍵を開けるような音がするので、暁の中には一気に緊張が走る。
いくら恋人だとはいえ、今の暁からしたら沖田は「顔と名前くらいしか知らない人」でしかない。
そんな事を助けてくれた恩人に面と向かって言うわけにもいかず、一体どんな距離感で接すればいいのかも正直わかっていない。
ひとまずちゃんと出迎えることくらいはしようと、静かに開く玄関の扉の前にそそくさと移動した。
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