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「あれ、起きてたんだ。もう頭痛いのとか平気?」
「...うん、さっきまで爆睡してたし。えっと、おかえり」
「はは、そっか。ただいま」
沖田は出迎えた暁にそう声を掛けると、おもむろに腕を広げて見せる。
いきなりの行動に暁は一瞬反応が遅れるが、もしかして...と心当たりのある行為が頭の中をよぎり、無意識に後ずさった。
「...って、ごめん。忘れてるからいきなりされたら怖いよね。」
「...あ、いや...ごめん。その...」
「大丈夫大丈夫、気にしないで。とりあえずリビング行こう、食べ物とか色々買ってきたし。お腹空いてるっしょ」
気を悪くさせてしまっただろうかと暁は慌てて謝るが、沖田はにこりと微笑んで優しく手を引かれる。
やはりこういう自然な動作から、自分達は付き合っていたのだと改めて実感させられた。
「暁の好きなプリンも買ってきたから、後で食べようね」
「え、何で俺の好きなもの...」
「当たり前じゃん、何年一緒にいると思ってんの」
「...あ、そっか。そうだよね」
沖田は俺のことを知っているけど、俺は沖田のことを何も知らない。
些細なやりとりでも暁の中には罪悪感にも似た後ろめたい気持ちが生まれて、咄嗟に視線を伏せる。
そんな暁を見て、沖田はぽんぽんと髪を撫でた。
「そんな顔しないで。俺のことはまた一から知っていってもらえればいいし。俺は今でも暁のこと大好きだから....また俺のことも好きになってくれたら嬉しいな」
「...っ...、...うん」
暁の中では今日知り合ったばかりの人間でしかないが、そんな直接的な言葉で好意を表されるとどきりとする。
....俺はこの人のことが好きで付き合っていて、それが2年も続いている。
その事実は、暁の沖田に対する距離感を縮めるには十分だった。
「...沖田さんのこと、教えて。俺、ちゃんと思い出したいから」
「無理には思い出さなくていいよ。でも俺のこと知りたいって思ってもらえるのはすごい嬉しい」
そう言って沖田は、今までの憂いを帯びた表情とは違う、至極嬉しそうな顔で微笑んだ。
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