ナツメといた夏

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 僕は興味もなかった中学受験で実力を超えた進学校に進学した。  変わってしまった僕を見ても態度を変えなかった友人たちは地元の学校に進学し会う機会もほとんどなくなってしまった。  彼らといるときだけが心休まる時間だったがそんな時間さえも僕の手からこぼれ落ちていった。  部活に入ることも許されずただひたすらに勉強する毎日にうんざりしていたが、他に選べる道などなくただ耐えるしかなかった。  話せる級友はいたが、小学校の友人たちのような関係とは何か違い、寂しい気持ちがいつも付きまとった。  そんなさなか、父さんが突然の病に倒れた。もう手の施しようのない状態だった。 ああ、また逃げるんだ。 病院に運ばれる父さんを見ても、そうしか思えなかった僕もどこか病んでいるのだと感じたが、自分の心に寄り添い気にかける余裕などなかった。  ほどなく父さんはこの世を去ったが、悲しむ心さえ凍っていたのか涙も出なかった。 ずるいという言葉が僕の頭の中を駆け巡り、逃げ出すことばかり毎日考えたが、結局は母さんを見捨てることなどできるわけがなく、耐えるしかなかった。
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