ウサギ解禁

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次の日から、テレビのニュースはウサギ解禁の話題で持ちきりだった。  次々と発表される新たな指針には、いちいち度肝を抜かれた。まず小学生以下の子供たちに『公式うさ耳』という名のウサギの耳のカチューシャが配布され、通学時の公式うさ耳の装着を推奨するという『ぴょんぴょん元気っこキャンペーン』が大々的に行われた。これには、当初税金の無駄遣いだという批判が殺到した。しかし、当の子供たちが喜んだことと、子育て世代や高齢者からの受けが良かったことでなし崩し的に受け入れられた形になった。 確かに、いざ始まってみると、朝の登校時に子供たちのいつにもましてはしゃぐ声が聞こえるようになり、遠目に見ているともはや本物のウサギが列をなして歩いているようにも見えて、政策に批判的な私でも思わず頬が緩むのを抑えられなかった。 「国民全体でっていうところに無理があるのよね。子供だけにすればそれはそれでいい政策だったかもしれないのに」 「いや、若者には結構うけてるらしいよ」  そういってタクミが見せてくれたスマホのネットニュースには、まるでハロウィンの前夜のようにうさ耳の若者で埋めつくされた街の写真が映し出されていた。 「今どきの若い子は……」 私の定型句に苦笑いしながらタクミは続ける。 「でも、多分、メグちゃん、若かったらやってるでしょ」 「まあ、確かに……」 「今だって案外似合うんじゃない」 「似合うかどうかそういう問題じゃないんだって」  私の言葉にタクミはにやにやする。 「似合うっていうのは否定しないんだな」  つけてほしいというならつけないでもない、と思うが、タクミはもうその話題には関心がなくなったようで、会社の愚痴に話はうつっていった。
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