ウサギ解禁

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政府は子供への反応に気をよくして、年齢を問わず希望者に無料で公式うさ耳を配ることを発表したが、これは残念ながら受けなかった。うさ耳に好意的な反応を示している若者たちの間では、すでにふわふわやスケルトンといった新たなうさ耳が流行していて、ただ白くてまっすぐな公式うさ耳が彼らの琴線に触れることはなかった。満を持して大量生産されたうさ耳は大量に余っていることが大々的に報道され、野党によって追及の的になった。 「これは、税金の無駄遣い以外の何物でもありません。総理、そこはどうお考えですか?」 しかし、樫山総理はすまし顔で答えた。 「公式うさ耳の役割は、各世代間の交流を活性化することにあります。今後は、役所や病院など堅苦しいと思われがちな部署にも積極的にうさ耳を広めていく所存であります」  答弁する総理の後ろでは、しかつめらしい顔をした与党議員たちが、子供のお遊戯会に間違えて紛れ込んでしまったような場違いな白い長い耳をつけて、居心地わるそうに座っていた。  総理のこの答弁には、これまで以上に批判的な声が殺到した。側近からも失策を隠そうとする悪あがきとまで言われたが、これが意外と当の役所関係者からは歓迎ムードだった。 窓口業務を担当する部署でうさ耳を採用したところ、長い耳を揺らしながらぴょこぴょこと頷くさまが愛らしいと好評で、窓口対応に対する苦情が減ったというのだ。 「でも、真剣に怒ってるときにうさ耳つけたやつにヘロヘロ対応されたら腹が立ちそうなもんだけどなあ……」 「そうだよね、待たされてるときにうさ耳でひょこひょこ動いているのはイライラしそうな気がするなあ……」 私たちの感想とは裏腹に、小枝さんの淡々とした声は、全国の市役所や県庁でうさ耳を装着する動きが広まっていると告げる。 「世の中わからないもんだよなあ……」
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