ウサギ解禁

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 うさ耳はあくまで少数派に過ぎなかった世間の様相は、12月に入ると一変した。年末のお祭り気分とクリスマスムードに一気に浮かれ気分になった街中には、年甲斐もなく、と言いたくなるようなうさ耳をつけて買い物する主婦や、スーツに色を合わせたうさ耳でおしゃれを気取っているようなサラリーマンの姿まで目立ち始めた。  はじめはあんなにうさ耳に否定的な視線を注いでいた中高年が、若者との距離が縮まるからと言い訳しながら、いそいそとうさ耳をつけ始めたのだ。 「結局、非日常を一番欲しがってるのは、疲れ果てている大人たちってことだなあ」  タクミは、しみじみとつぶやきながら、テレビの向こうで、赤ら顔でうさ耳を自慢しているおじさんたちを眺める。 「大人には冬休みもお年玉もないし、サンタクロースも来ないもんなあ……」 「非日常ねえ……」 「案外、悪くない政策だったのかもしれないね」  その言葉通り、史上最低を更新し続けていた樫山内閣の支持率は12月に入ってじわじわと回復傾向を示しているのだった。 「みんなの気が知れない」  一方で、その馬鹿馬鹿しさになじめないうさ耳反対派は、じりじりと肩身を狭くしていった。  
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