ウサギ解禁

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職場でも、気が付けばうさ耳率が上がっていた。はじめは若い子たちだけが通勤につけてくるくらいだったのが、最近では定年も間近な部長がうさ耳をぴょこぴょこ揺らしながら電話に向かって頭を下げている様などは、異様なものであるはずなのに、たしかにどこかユーモラスでほほえましい。  しきりに言われているように、普段近寄りがたかった上司がなんだか愛らしく思えてくるのは、うさ耳の効果と認めざるを得ない。何より、自分がうさ耳をつけていると思うと、感情的に怒鳴るのがばかばかしくようで、嫌みなことで知られていた部長は人が変わったように穏やかになった。  頑固なうさ耳反対派たちは、そんなことでは効率があがらないと執拗にネットで声を上げていたが、意外に仕事がはかどるのだから面白い。  営業の一花ちゃんなどは押しの弱さと幼くみられるその童顔のせいで、いつも成績が伸び悩んでいたが、うさ耳をつけた途端に、急激に商談が成立する率が上がった。普段は地味な服装をして目立たない印象の一花ちゃんだったが、小さめのうさ耳をちょこんとのせている姿は、女の私が見ても見とれてしまうくらいにかわいらしいので、取引先のおじさんたちが懐柔されるのもうなずける。
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