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【かくしてカナリアは飛び去った】
お疲れ様でした、陛下。
最期の息を吐きだした時、私を労わる優しい声がした。
……たくさんの後悔がある。あの時、あの選択をしていたら。あの時、あの人の思いに気づいてあげられていたなら。いつだって最善と最良の手段をとれたわけでもなく、押し寄せてきた荒波をいなして、時に流され、ここまで辿りついてしまった。
もっと器用に生きられればよかったのにね、セディ。
だからね、私がだれかに殺されてしまったところで仕方がないと思うのよ。
アルデンヌ人は、迷信深い。輪廻転生を信じている。長い間、深い森にあった国土では、幻想的な民話やおとぎ話がひそやかに語り伝えられてきた。その物語には、多くの『生まれ変わり』をした人びとが登場する。
小さな子どもが前世の記憶で昔の仇を訴え、流れて来た旅人がその土地の人びとしか知らぬ秘密を暴き、ある村の少女が数百年前に死んだ前世の己の遺体を見つけた。
このような話を聞かされるアルデンヌの子どもたちは、ごく自然に『生まれ変わり』の存在を信じて育つ。そういう土壌もあってか、この国では自らを『生まれ変わり』と称する人びとも現れ、国民全体が一種のオカルトとしてこの手の話を楽しんでいる。
今から二十三年前のこと。父が建設業者、母が小学校教師の家庭に女の赤ん坊が生まれた。彼女はリディと名付けられた。ファミリーネームはフロベール。リディ・フロベール。……私のことだ。
私もまた、『生まれ変わり』のひとりだ。物心と同時に自らの前世を思い出してしまい、三、四歳の身体に、三十四年間分の記憶が詰め込まれることとなった。
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