クールミント・サマー

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「でね、そのあと二人で水族館に行ったの。めっちゃ楽しかった~!」  帰りは行きよりも上手に樹の背中にくっつくことができたらしい。  嬉しそうに汐里が話すのを聞いていた麻耶と咲子は、興奮冷めやらぬ様子である。 「うわ~っ!それ完全に恋人デートだよね?」 「好きな人の背中に抱きついてみた~い!」  投げキッスのポーズをする麻耶に、自分を抱きしめる仕草をする咲子。  三人の周りにはハートがふわふわたくさん宙を舞っている。 「それで?次の約束はしてきた?」 「チャンスは掴むもの!」  いつの間にか、汐里よりもあとの二人の方が目を輝かせている。 「あ、えっと、樹くんがね、映画行こうよって誘ってくれたの」 「きゃーっ!樹くーん!」 「樹くんから言ってくれたなんて、素敵ーっ!!やるぅー!!絶対汐里のこと好きだよ、樹くん!」  ライブにでも行ったかのようなノリを見せる麻耶と咲子だったが、汐里は反対にしゅんと下を向いた。 「でも……つき合ってないもん」  確かにそうだ。  顔を曇らせる汐里に、麻耶と咲子は続ける。 「なんでなのー!?おかしくない?ズルいよね。あたし樹くんにお説教するわ!」 「う~ん。樹くんもさぁ、そんな、好きでもない子を誘ったり自分のバイクに乗せたりしないって!」  咲子が言うように、好きでもない子をバイクに乗せて出掛けたりはしないだろうから、嫌われてはいないのだろう。  しかし。 「やっぱり……好きじゃないから返事くれないのかな。年上の人がいいだろうし。それならどんなに頑張っても私には無理だよ……」  七つも年下という事実は努力したって覆せない。 「もうね、好き好き言ってても返事もらえないし、嫌われてるのかなって思ったらそれ以上言うのが怖くなっちゃったんだもん」  明るいのがチャームポイントのひとつである汐里なのだが、樹のことでは悩み、落ち込むことも多いのだ。  あの日の樹の背中。  温かくて大きくて、男の人の背中だった。  兄だと思い込もうといくら努力しても、無理だった。  やっぱり、樹のことが好きだと思った。 「あのね、私ね、来週の誕生日に決めてることがあるんだ」  汐里はいつになく真剣な顔で麻耶と咲子を見た。 「好きだってもう一度告白してみようと思ってるの」  麻耶と咲子はお互いに顔を見たあと、汐里に向かってうんと強く頷いた。 「いいと思う!大人になった汐里を見せてやれ!」 「樹くんに、もうお子ちゃまじゃないんだぞ!ってアピールしてきなよ!」 「うん。これが最後ね。それでダメなら、もう諦める」  えへへと力なく笑う汐里。  中途半端な関係に終止符を打つ。  誕生日を楽しく過ごしたあとに、告白して振られたら。  すべてを失うかもしれないし、泣くことになるかもしれない。  二十歳の誕生日にそんなことが起これば、一生忘れられないだろう。  それでも汐里の決意は固かった。  何としてでも言わなければならないのだ。 「私は、樹くんが好き!大好き!」  グラスの中に残った最後のミントゼリーの欠片。  スプーンですくって口へと運ぶ。  誕生日は目の前だ。  汐里はそっとスプーンをテーブルに置いた。
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