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緊張する。
心臓がドキドキ響く音が聞こえるほどだ。
部屋の鏡の前で、汐里は自分の姿を映し手に汗を握って立っていた。
今日がいよいよ樹がバイクに乗せてくれる日なのだ。
緊張で朝早くから目が覚めてしまい、おかげで余裕を持って準備できた汐里だったが、約束の時間が迫るほどに心臓は高鳴ってくる。
すると、どこからともなくブーンという低い音が近づいてきたかと思っていると。
ピンポーン。
チャイムの音にビクッと身体を揺らし、汐里は玄関へと足早に向かった。
ドアを開けると、そこには樹の姿。
薄いジャンパーに黒いGパン。そして手にはヘルメット。
彼の後ろには大きな黒いバイクがしっかりと鎮座している。
「おはよ。準備できてる?」
汐里は、元気いっぱいに「うん」と首を縦に振った。
そんな汐里を、樹はじーっと観察するように見つめた。
見つめられた汐里は、みるみるうちに顔を赤くしてしまった。
「よし、合格!」
樹に言われたとおりにスカートや半袖は避けて、ウサギのTシャツの上に薄手のピンク色をした可愛らしいパーカーを羽織り、黒いサロペットパンツを履いた。
パーカーは、首元にリボンが付いている。
この暑い時期にこんな格好は正直辛いが、守らないとバイクには乗せてもらえない。
もしも転倒したりした場合に危ないからだと樹は言った。
限られた中で精一杯のおしゃれを楽しみながら、汐里は玄関の鍵を閉めた。
「ほら、これ被って」
ぽんと手渡されたヘルメット。
樹の真似をして頭にガボッと被る。
「被った?じゃあ、乗って」
後ろの席に、乗れと言う。
汐里が必死に足を上げて跨がると、樹は次の言葉を発した。
「乗ったら、しっかりオレに掴まって」
「えっ!?」
「え?じゃないよ、ほら早く」
樹に掴まるというのは、抱きつくということなのだろうか。
先日見かけたカップルも、前に座った男性に後ろから手を回して女性が抱きついていた。
カーッと顔を赤くして、汐里は樹の身体に手を回した。
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