クールミント・サマー

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「こ、こう?」  目の前に樹の背中があるだけで口から心臓が飛び出そうなのに、そんな背中にぴったり抱きつくというのは汐里にとって天国か地獄かどちらだろう。  恥ずかしすぎて気絶しそうなのだ。  控え目に樹の腰に手を回した汐里だったが、あえなく樹に一蹴されてしまった。 「そんな掴まり方じゃ危ない。振り落とされるぞ。もっとしっかり!」 「えええ?!こうかな?」 「ちょっ……あっ……しおりん、そこ触るのやめてくれるかな?」 「ひえぇっ!」  慌てて汐里は手を放した。  ヘルメットを被っているので分からなかったが、樹もどうやら照れているらしい。 「オレ胸の辺りは……くすぐったいからやめて」 「ええっ?ごめんなさい!じゃあ、この辺かな?」  今度は手を下に下げすぎたのか、樹はびっくりして声を上げた。 「うわぁっ!……おい!しおりん、わざとだろ!」 「えーっ!?わざとじゃないよぉ~!どうしたらいいの~!?」 「普通に、ぎゅーっと抱きついてくれたらそれで……いいんだけど」  言いながら、樹も自分の口から出た言葉に照れているのかトーンが下がる。  汐里は深呼吸をし、お腹の周りに手を回した。  樹だと思うから、緊張して妙な抱きつき方になるのだ。  兄の光弘だと考えればいいのだ。  おかしな兄に抱きつく妄想をするなんてどうかとも思うが、そう考えるのが一番自分が冷静になれる気がした。  すったもんだしているうちにどうにか形が整い、バイクは勢いを出して走り始めた。  ドドドという音が身体中に響いている。 「うああああああ!!」 「どう?大丈夫?手を放すんじゃないぞ!」 「分かったぁぁぁぁ!!」  ゆっくり走るからと言ってくれたが、思いのほかスピードが出ている気がする。  誰に言われることも無く、汐里はこれでもかと樹に抱きついていた。
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