クールミント・サマー

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 どれぐらいの時間が経ったのだろう。  気が付けば、波の音が聞こえる。  どこに行きたいか聞かれ、汐里がリクエストしたのが海だったのだ。 「着いたよ、大丈夫?」  バイクが停車しても相変わらず樹に抱きついたまま固まっている汐里に、樹が言った。 「はわわわわ……!つ、着いたの!?」  手が震え、足もガクガクしている汐里を見て、樹は心配そうな顔をした。  汐里を下ろしたあと、傍らのベンチに並んで腰掛ける。  自動販売機から冷たいペットボトルの麦茶を買ってきた樹は、汐里の元へと戻ってきた。  そしてボトルの蓋を開けて汐里に渡してやり、再び隣に腰掛けた。 「ごめん、怖かった?」  ひと口めを飲んだ汐里は、樹が心配そうな顔をしてこちらを見つめているのに気が付いた。 「怖かったっていうより、ドキドキしすぎて……えっとえっと」 「え?」 「ドキドキするから、『樹くんじゃない!お兄ちゃんだ!』って思うように努力したけど、やっぱりこの背中は樹くんなんだもん」  汐里の口から「お兄ちゃん」という言葉が飛び出してきたため、樹はピクピク顔を引きつらせた。  自分にあのおかしな兄を重ねていたなんて、複雑な気持ちである。 「あはは……はは」 「樹くんのお腹、筋肉引き締まってた」 「へ?」  汐里が顔を赤らめて呟いた言葉に樹が反応した。 「服の上からでも分かったよ。お兄ちゃんと全然違ったんだもん。だから……余計に緊張したんだもん」 「……そりゃどうも」  しーんと静まりかえり、時間が止まってしまったように感じる。  波の音だけが相変わらず静かに響いている。 「あ、でもコツは掴めたから!もう大丈夫だよ!」  汐里はそう言って笑顔を見せたあと、すっと立ち上がって真っ直ぐ前を見た。  目の前には広々とした海が広がっている。  夏の海だ、人が多く訪れているのだろうと思っていたのに、ここには誰もいない。  二人っきりなのだ。 「きれいな場所……」 「ここ、いいだろ?オレのお気に入りの場所なんだ」  たまに、一人になりたいときにはここにやって来るのだそうだ。  精神が落ち着き、癒やされると言って樹は微笑んでいる。
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