母は気遣いを忘れた

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母は気遣いを忘れた

 家事も兄弟の面倒も母の相手もやって、親に心配をかけたくなくて成績優秀の優等生をやり続けていると、段々体におかしいところが出てきた。  眠っても眠っても疲れが取れない。ビックリするほど肩が凝って仕方がない。お腹を壊したり、嘔吐してしまったりした期間もあった(腸炎ではない)。  体調不良を訴えても、 「子供なんだからすぐに元気になるでしょ」 「夜更かししてるんじゃないの?」 「肩こりだなんて、大人みたいなこと言って」 と大人たちは鼻で笑い、取り合ってくれなかった。  同級生たちは元気いっぱいに走り回り、大声で笑い、日が暮れるまで自転車を乗り回して夜更かししても、また次の日明るく登校してくる。  私にはできなかった。極端に体力がなかったのか、家事のせいか、家の張り詰めた空気に精神的に疲れたせいかわからないが、同級生たちと走り回ることが無理だった。  保健室に逃げ込んだり、体育をサボれる範囲でサボったりして、極力体力を使わないように、でも大人に叱られないように振る舞った。休み時間や放課後は絵を描いたり読書ばかりしていた。大人しい私を見て大人はまた、偉いねと褒めた。  疲れ切った私を見て、母は心配するどころか、 「私の方が肩こりがひどい」 「浮腫んで足がだるい。見てよホラぱんぱん!」 「良いよね子供は。大人は疲れがなかなか取れないのよね」 となぜか自分の方が大変だと張り合ってくるのだ。 「そう……つらいね。わたしのはたいしたことないね」  そう言って引き下がるしかなかった。ただただ気にかけて欲しかっただけなのに。  父は一言、 「子供がくだらないことで悩むな。そんな暇があったら勉強して遊んでこい」 とだけ言う。  今思えば、父なりに「家事とかしなくて良いから子供らしく好きなことしろ」と言っていたんだと思う。  この頃から頻繁に死にたいと思うようになる。  鬱状態の母の真似をしている訳ではない。  家に帰ったら家事をして、弟の宿題を見て、最近生まれたばかりの弟のオムツを替えてお風呂に入れて、お米を炊いて、洗濯物を取り入れて畳んで……と考えていたら、家に帰りたくなくなってくる。  でもとても田舎なせい(おかげ?)で行くところもなく、「消えてしまいたい」と願いながらトボトボと帰宅していた。
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