怪盗『幻想紳士』

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その昔、この世に盗めない物はないという伝説の大泥棒がいた。 その大泥棒が盗む物は形ある物だけではなかった。音や光、時間や記憶さえも盗んでしまう。 盗むのは不正な手段で手に入れた表沙汰に出来ない金や詐欺グループの金など。 そういった金を盗んでは『被害者へお返しください』というメッセージと共に警察署の前に置いておくという手口。 しかも、メッセージに添付された犯人グループのアジトに向かうと、紐に繋がれ空中にプカプカ浮かんでいる詐欺グループの犯人たちがいたそうだ。 犯人たちは『重力』を盗まれていたのだ。 そして、そんな大泥棒の活躍は瞬く間に広がり、現代に鼠小僧が現れたと噂されるようになった。 警察は大泥棒の行方を追った。 逮捕しようとするのではなく、犯人逮捕の協力への感謝を伝えるためだ。 捕まえた詐欺グループの犯人たちから情報を得ようと問い詰めるが、皆一様に「覚えていない」という答えしか返ってこなかった。 恐らく、犯人たちは大泥棒に(まつ)わる『記憶』を盗まれていたようだった。 正体を掴めないまま時は過ぎ、誰が言い出したのか、その大泥棒の事を『幻想紳士(げんそうしんし)』と呼ぶようになった。 その鮮やかな手口とマジシャンのような信じられない現象を起こすことがその名の由来だそうだ。 その後、警察の必死の捜査も虚しく、正体を掴むことができないまま、幻想紳士は姿を消した。
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