10.あなたが幸せなら私も幸せ

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「高校の頃ってグラウンドから図書室の窓際が見えててね。部活中に吉野さんが本を読んでいる姿を皆で見てた。で、誰かが窓際のお姫さまのようだねと言い出して、俺ら運動部の憧れの存在だったよ」  そんなふうに言われたらどんどん顔が熱くなる。ぱたぱたと優羽は自分を手で煽った。 「ごめんね、お姫さまじゃないから幻滅したでしょう?」 「いや? 相変わらずお姫さまだよ。それは昂希が心配になってついていろって言うよなぁと思った」  こんなに褒められるのは本当に困る!  岡本は整った顔に笑みを浮かべて、優羽に向かって首を傾げた。 「すごく残念。昂希の彼女じゃなかったら俺が口説いてた」 「もう、岡本くんは口が上手いのね」 「本当のことだよ。昂希は恩人だから手を出さないだけ」 「恩人?」 「うん」  頷いて、岡本はグラスのふちを軽く指でなぞる。 「このホテル、俺の祖父が作ったんだけどね、少し前に悪質な乗っ取りにあって……、手放す寸前までいった。それを助けてくれたのが昂希。俺の祖父のホテルだと知って全力で救ってくれた」  綺麗に磨きあげられたグラスがライトに照らされて、キラキラと光っていた。  その時のことを思い出しているのか、岡本は笑みを消してグラスを見つめている。
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