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異動があればその手配などもあり人事異動の時期は繁忙期になる。
秋の異動も落ち着いて、決算にもまだ間がある。今は比較的落ち着いている時期だった。
仕事を終え藤井と二人で会社を出たときだ。
「吉野!」
優羽に向かって爽やかな笑顔を向けてくるのは城ヶ崎だった。
「城ヶ崎くん!」
「あらー、吉野さん焼けぼっくい、すっごくイケメンじゃないですかー」
城ヶ崎を見た藤井は優羽にひそっと耳打ちする。
──イケメンの焼きぼっくい……。
想像するとちょっと笑えるけど、笑っている場合ではない。
「お疲れ様でしたー」
空気を読んで、にっこり笑った藤井はそっと手を振って二人から離れていったが、そんな藤井に(胡桃ちゃん置いて行かないで!)と心の中で叫んでいた優羽は知らなかった。
藤井に向かってお前は帰れよと言わんばかりのオーラを出していた城ヶ崎がいたことに。
優羽は意を決してにこりと笑って城ヶ崎に向き直る。
「あ、あら? 城ヶ崎くん、偶然ね?」
「だと思う?」
思わない。もちろん思わないけど、それ以外の返しがあるなら教えてほしい。
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