13.売られた媚びなら言い値で買う

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13.売られた媚びなら言い値で買う

 二階のコンシェルジュの前を通り抜け「お疲れ様です」とにこやかな笑顔を向けられるのに、かろうじて微笑んで「お疲れ様です」と優羽は返す。  城ヶ崎と思わぬタイミングで顔を合わせて、ほわほわとした気分で優羽は一旦一階に降り、そこから部署に戻るため、エレベーターの前に立った。 「優羽」  声をかけてきたのは、優羽と以前交際していた柴崎だ。  整った顔立ちと、綺麗なスーツ姿。カバンを手にしているから、営業から戻ったところなのだろう。  さすがに優羽も笑顔を向けることはできなかった。かと言って声を掛けられたのに無視することもできず、淡々と口を開く。 「お疲れ様です」 「なんだよ? それだけ? 冷たいな」  まっすぐ前を見る優羽の横に立った柴崎は笑いを含んだ声で、少し屈んで優羽の顔を覗き込む。 (早く来ないかしら?)  なかなか到着しないエレベーターの前で優羽はじりじりとした気持ちで待っていた。 「少し、話せる?」 「なんでしょう?」  その場で優羽は聞き返す。 「こっち」  そう言って柴崎は優羽の手を引いて、エレベーター横にある非常階段へと優羽を引っ張ってゆく。  交際していた時はこういう強引なところもきらいではなかったけれど、今はなぜこんなことをされなくてはいけないのか、訳が分からない。
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