13.売られた媚びなら言い値で買う

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 目を覚ましたとき、あまり覚えのない天井が目に入って、優羽はそれが会社の救護室なのだと気づいた。 (倒れたのね……) 「優羽」  目の前にいたのは、ここにいるはずのない人物だった。心配そうな顔で、目を覚ました優羽を覗き込んでいる。城ヶ崎だ。  その姿を見るだけで優羽は安心した。端正なその顔が憂慮を含んでいる。  きっとたくさん心配させてしまった。そんな城ヶ崎に向かって優羽はそっと声をかける。 「昂希くん」 「帰りに優羽に声を掛けようとしたら、倒れて救護室に運ばれたと聞いたから。大丈夫か? 過呼吸をおこしたらしいぞ」  低い城ヶ崎の声が救護室に響く。 「過呼吸……」 「なにかあったのか?」  優羽は城ヶ崎をじっと見る。誰でも見とれてしまうほどの端正な顔立ちだ。綺麗な人だなぁとしみじみ思う。  なのに優羽と視線が絡むと、城ヶ崎はそっと目を逸らした。 「そんなにじっと見たら、何かしたくなる」  ふっと笑って城ヶ崎は優羽をそっと抱きしめる。 「ん? 過呼吸を起こすほどの不安ってなにがあった?」  城ヶ崎の胸の中はひどく安心する場所で、その温かさに包まれて、優羽は口を開く。 「エレベータの前で、偶然柴崎さんに会ったわ」 「元カレか?」  こくりと優羽は頷く。
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