13.売られた媚びなら言い値で買う

7/12
前へ
/255ページ
次へ
「また付き合いたいと言われたの。もちろん断ったんだけど、この前のロビーでのことが噂になっていると言われて、そんなに優秀な人は遊びなんだって、遊びなら自分でもいいだろうと言われて、とても怖かった。だって彼女がいるのに」  ぎゅっと強く抱きしめられる。 「遊びなわけないだろう。どれほど真剣か。優羽は知っているよな?」  腕の中でこくこくっと優羽は一生懸命頷いた。 「知ってる」 「俺の気持ちを疑ったわけじゃないな?」  それにはつい優羽もくすくす笑ってしまった。 「疑ってないわよ」 「それならいい。こうやって優羽を抱きしめるのは俺だけだ」  その声はとても強くて優しくて、優羽を包み込む腕はいつも力強くて温かい。 「大丈夫だ。安心してこうやって腕の中にいていいから」  ぎゅっと優羽は手を城ヶ崎の背中に回す。二人の体温が密着してさらに温かい気持ちになった。 「うん。ありがとう」  ◇ ◇ ◇  そんなことがあった数日後のことだ。 「城ヶ崎先生」  姫宮商事で担当部署との打ち合わせを終えて、帰ろうとした城ヶ崎は法務部の女性に呼び止められた。  いつも書類などの受け渡しをしているので面識はある。 「はい?」 「あの……少々お時間を頂けますか?」
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21222人が本棚に入れています
本棚に追加