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ギャルソンからワインリストを受け取った城ヶ崎は優羽に尋ねる。
「吉野、辛口は苦手なんだっけ?」
この前ちょっと話しただけのことを、城ヶ崎は覚えているようだ。
「うん。あまり辛いのは苦手なの。お酒に強いわけではないから」
「なるほど。それでこの前はあんなに酔ってしまったわけか」
実際にその通りなので返す言葉はない。
「では、甘口のスパークリングか何かにするか」
優羽は城ヶ崎の意図が読めないし、どうしたらいいのか分からなくて、戸惑うばかりなのだが、城ヶ崎はそんなことは気にしないでテキパキと話を進めてしまう。
「こちらはいかがでしょうか? 名門ワイナリーで栽培されたモスカート・ビアンコ種のみを使用しており、口当たりものど越しもマイルドです。女性の方にもおすすめです」
「うん。それでお願いします」
こなれたやり取りは城ヶ崎がこういったところにも慣れている気配を感じさせた。
エスコートに慣れている。
レストランの中はうっすらと暗くて、テーブルの上にはキャンドルの炎がゆらゆらと揺れている。
全面が大きな窓からは外の夜景がキラキラと光って見えていた。
各テーブルの間は離れているので、話し声のようなさざめきは聞こえるけれど、何を話しているかまでは分からなくて、全体的に落ち着いた雰囲気だ。
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