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「全部ICになっているからかざすだけだぞ」
「エントランスと、エレベーターもよね?」
「そう。部屋のドアもな」
「うん。分かった。大丈夫!」
「それはスペアキーだから優羽にやる。自由に使えよ」
「あ……りがとう」
まさか部屋のカギを渡されるなんて思わなかった。大事なものをもらった気がして、嬉しくてつい顔が緩んでしまう。
「なあ、そんな顔見せないでくれる? 俺、一緒に帰りたくなっちゃうんだけど」
城ヶ崎の大事な仕事の邪魔はできない。
「あ、えっと、お仕事頑張って」
それから優羽は手のひらの中のカギをきゅっと握る。
「おうちで待ってるから」
「ん。優羽、ありがとうな」
こらえきれなかったように部屋を出る前にハグされて、頬にキスをされたのは、優羽にはとても幸せな気持ちになった。
けれど、二人の間にすれ違いが起きていたことには二人はまだ気づいてはいなかった。
◇◇◇
優羽が事務所を出ていったあと、自分の執務室に戻り城ヶ崎は深く息を吐く。
──優羽が可愛すぎる……。
気が利く優羽が事務所に差入れてくれたお菓子は有名なパティスリーのものだったらしく、他の弁護士や事務員にも好評だった。
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