3.記憶の中のあなたに

1/12

21194人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ

3.記憶の中のあなたに

「どうして俯くんだ?」  思わず俯いてしまったから城ヶ崎の顔は見えないけれど、少しだけからかうような響きを帯びていた。  そんな声を聞いたらますます顔は上げられないし、どんどん鼓動は大きくなっていくし、顔も熱くなってくる。 「優羽」  甘く呼ぶ声。 「優羽」と。そんな声が記憶に引っかかったような気がする。 「呼んだ……? そうやって」  優羽が城ヶ崎を見ると、ひどく優しい顔をしてソファから立ち上がった城ケ崎が、ゆっくりと優羽に近づいてくる。  優羽はそれを見上げることしかできなかった。 「呼んだ。何度も、何度も呼んだ」  城ヶ崎が優羽をソファから抱き上げる。 「忘れているなら仕方ない。あの時の記憶が薄れているなら思い出させてやるよ。優羽がどれだけ甘い声で俺のこと誘ったとか、俺の身体にしがみついてイったとか、可愛くねだったこととか」 「ぜ、絶対うそ!」  優羽はあまり、そういうことが好きではなくて、ねだるなんてことはありえない。 「さあな? 優羽の身体に聞いてみようか?」  いたずらっぽい顔をした城ヶ崎は優羽をベッドに降ろし、指を絡めて優羽を上から覗き込む。  きゅっと口角の上がった笑顔は優羽の好きなあの表情だった。 「これで突きとばせないよな?」
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21194人が本棚に入れています
本棚に追加