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きっぱりとそう言った城ヶ崎に山口はなんとも言えない表情を見せた。
「優羽は今フリーだけど、無理強いみたいなのはやめてよ?」
「なんだそれ」
さらっと返したけれど、胸の中を読まれたようでぎくんとしたのも間違いはない。
そうか、フリーなのかと少し嬉しい気持ちになってしまったことも。
酔ってふにゃふにゃになった優羽をタクシーに乗せた。
最初は送るつもりだったのだ、本当に。
「吉野、家どこ? 実家でいいのか?」
「んん? 違うよ」
城ヶ崎にこてんともたれる優羽は無防備で、こんな姿は見たことがなかった。
「お客さん、どうします?」
そうタクシーの運転手に聞かれ、城ヶ崎はホテルの名前を口にした。
ホテルの部屋に入ると、優羽はベッドの上に座ってシーツをつついていた。
「水、飲むか?」
部屋に置いてあるペットボトルを優羽に差し出す。
「ありがとう」
ふわりと優羽が笑った。
普段の優羽は城ヶ崎のことをどこか警戒しているように見え、こんなふうに無邪気にふわりと笑うことはない。
自分に対して向けてほしいと思っていた笑顔だ。
つい、頬に手を触れてしまうと、すり……とちょっと甘えるように頬を手のひらに擦りつけてくる。
その仕草に城ヶ崎は胸をつかまれたような心地がした。
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