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だからあれは、優羽としては城ヶ崎なりの冗談なのかと思っていたのだ。
「吉野さん、彼氏ですか?」
後輩にそう聞かれて優羽は首を横に振る。
「いいえ」
同時に城ヶ崎は頷いて「そうだよ」と答えていておかしなことになってしまった。
「優羽、照れ屋さんだからな」
きゅっと抱き寄せられると優羽は戸惑う。けれど、まっすぐに突き刺すような城ヶ崎の視線には逆らえない。
逆らうな、と言われているようだった。
「遅くまで吉野さんをお引き留めしてすみませんでした。失礼します」
二人で後輩を見送ったあと、優羽は城ヶ崎に手を繋がれる。
「遅くまで大変だったな。メッセージを見る暇もないくらい夢中だったなら、腹も減っただろう? 飯でも行こう」
突き刺すような瞳で見てきたり、今のようにこんなふうに穏やかに言われたら優羽はどうしたらいいのか分からなくなる。
自分はどうしたいのか。城ヶ崎もどうしたいのか?
今はただ繋がれたその指先が温かくて、繋いだ手のひらが包み込まれるようで、そのままでいたかった。
「ざっくばらんな店でいいか?」
「あ、うん」
手を繋いだまま、城ヶ崎はタクシーに向かって手を上げ、優羽を先に乗せてくれる。車で10分くらいのところにその店はあった。
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