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楽しくてつい、そんなに時間が経っていたとは思わなかった。
優羽は慌てて時間を確認する。
精算し、店を出て駅まで歩く時間を考えたら間に合うかは絶妙だ。
「間に合うかな。ごめん、すぐ出るわ。精算をお願いしてもいい?」
優羽はカバンの中から財布を取り出す。
その手を握られた。
思わず顔を上げて城ヶ崎を見る。
「泊まっていけば」
まっすぐ射抜くようなあの瞳だ。逆らえない。
「どこ……に?」
「俺の家」
さっきまで楽しかったのに、急に二人の間に緊張感が走ったような気がした。
──どうしてそんなことを言うの?
「借りを返してもらう」
「借りって……」
「名前で呼ぶと言ったのに優羽は呼ばない。君からキスする約束だ」
それを借りと言うのだろうか?
「冗談なのかと思ってたのに」
「俺は優羽にそんな冗談は言わない」
こんなことになるなら、払うなんて言わないで素直にご馳走様と言って席を立てば良かった。
それで城ヶ崎が逃がしてくれるとも限らないが。
「キス、だけ?」
優羽の方はまっすぐ城ヶ崎を見ることはできなくて、その口元辺りに目をやりつつそう尋ねる。
城ヶ崎が口角を上げて、唇が微笑みを形作った。
「それ以上でも構わない。お釣りが出るほどしてやろうか?」
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