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そんなことを言われるとは思わなくて、瞬間優羽は真っ赤になる。
「いや。それはいい」
なんとも言えない空気になる。甘く、少しだけ淫靡な秘密を共有する空気だ。
優羽の手を握ったまま、城ヶ崎はウエイターに手を上げる。
「チェックしてください」
「かしこまりました」
城ヶ崎はスーツの胸ポケットからウォレットを出すと、カードを渡す。
ウエイターが持ってきた伝票にサインを入れると、城ヶ崎は優羽の手をまた繋いで席を立った。
まるで逃すまいとするかのようだ。
繋いでいる手が熱い。優羽は自分の手がだんだんじっとりと汗ばんでくるような気がした。
コートを羽織るため、一旦手を離しても城ヶ崎はすぐに優羽の手を探りあてて手を繋いでしまう。外に出てタクシーに乗っても繋いだままだった。
そのくせ、一言も言葉を発しようとしないのだ。
──どうしよう。本当に手汗が気になる……。
そっと手を離そうとすると、きゅっと握り返されて「なに?」と聞かれた。
「手……が」
「いやなのか?」
そう尋ねる城ヶ崎が微妙に不機嫌な気がする。怒らせたいわけではない。
だから優羽は正直に言うことにした。
今までの経緯からすると、優羽が正直に言うことには城ヶ崎はきちんと答えてくれている気がするから。
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