そうだ、スペインに行こう

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そうだ、スペインに行こう

 どうせ逃亡するのなら、外国へと高飛びしちゃおうか。憧れの未知の国、たとえばスペインとか…… そうだ、それがいい。スペインに行こう。  密かにそう決めた瞬間、心の中に小さな針穴が開き、一条の光が射し込んだ。  それにしても、何故スペインなのか。改めて自分の心に問うてみた。  ボクが音楽に目覚めた高校生の頃、ナイロン弦の中古ギターを数千円で手に入れた。ベタな動機ではあるが「禁じられた遊び」が弾けるようになりたかったのである。  ギターの腕前のほうはともかくとして、幸か不幸か、ボクはそのままクラシック・ギターの魅力に取り付かれていた。そしていつしか興味の対象は「フラメンコ・ギター」の世界へと広がって行くのであった。  昔、青森出身の友人がこう言っていたのを思い出す。 「津軽三味線を聴くと血が騒ぐ……」  分かる気がする。  ボクはフラメンコ・ギターを掻き鳴らす音に血が騒いだ。つまりそういうことなのだ。  少しでもこの音楽をかじった者として、やはり本場の空気に触れてみたい。そしてボクは逃亡したがっている。それならば、地球の裏側まで行ってしまえ。そう、行くしかない……  心が そう決まると、早速 NHKラジオのスペイン語講座を聴き出した。スペイン語の語感は、エキゾチックで新鮮だった。ほぼローマ字読みで発音できること、それが何よりもの救いであった。
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