(1)三十路のロンリーバースデー

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(1)三十路のロンリーバースデー

 10月も終わりが近付いて、ようやく冬の気配が顔を出し始めた寒い夜。  ドラマチックな何かを期待しても、結局なにも起こらないまま訪れた30歳の誕生日。  私はコンビニケーキに突き刺したローソクの火を、思いっきり息を吸い込んで吹き消した。 「来ましたね、来ちゃいましたねぇ。ついに三十路よ、三十路。大台に乗っちゃいましたね」  独り言を呟いてリモコンで部屋の電気をつけると、ついでにテレビをつけて、賑やかそうなバラエティ番組にチャンネルを合わせてボリュームを少し上げる。  ちょっと奮発して、近所のビストロでテイクアウトしたラムチョップとガーリックバターライス、きのこのマリネにミネストローネ。  そしてスーパーの特売で買った、チリ産の赤ワインをテーブルに広げて、一人寂しく誕生日を祝ってる。 「へえ、値段の割に美味しいじゃん」  赤ワインは滅多に飲まないけど、独りで飲んでいる現実が心に染みた。  梅原奏多(うめはらかなた)。本日めでたく30歳になったお一人様。  カナタなんて男みたいな名前で、父親譲りの中性的な顔立ちは、女友だちから羨ましいなんて言われるけど、それで男の子に揶揄われることはあってモテた経験はない。  しかも声が低くてハスキーで、電話だとまず男性に間違われる。性格は暗くも明るくもない。そんなコンプレックスを抱えた凡人女子が私。  いや、身長が170センチあるのは、やっぱり女子とは言い難いかな。嘘、本当は173センチある。だから名前も顔も声も、この身長も全部がコンプレックスでしかない。  そんな私が二つ年下の彼と付き合って2年半、出会いが合コンだったからかは不明だけど、来たるべくして来た別れは2ヶ月前。真夏の暑い日。  年齢的に結婚を意識してたのは事実だけど、かと言って歳下で感覚が若い彼と、結婚する未来が明確に想像出来てたかどうかまでは分からない。だから別れたのは私のせいでもある。
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