山道の看板

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文庫瑠璃が民俗学部の部室に入ると、部長の星宮先輩が床の上に横になっていた。 「星宮先輩、どうしたのですか?」 「瑠璃か、俺はもう死ぬ」 「感染したのですか?」 「違う映画版リングの映像を見てから、1週間経ってしまったんだ」 「安心して下さい、あれはフィクションです」 「でも怖かったぞ?」 「ホラーですから。僕の方が呪いで死ぬかもしれません」 「何かあったのか?」 「見てはいけない子供を見ました」 「何処で?」 「日本平です。例の歩道橋です」 「歩道橋?」 「知らないんですか?」 文庫瑠璃の不思議な話し。 静岡県の山奥に、頻繁に事故の起こる、魔のカーブがある。 其処で事故を起こす車は、皆、何かを避ける様にハンドルをきって崖から落ちてしまう。 何を避けたのかは解らない。皆、死んでしまったからだ。 ある日、そのカーブに誰かが 「○○ちゃん、もう止めて!」 と書いた看板を立てた。 すると、事故は、ピタリと無くなった。 しかし、それから数年、看板は撤去されてしまった。 「僕、この歩道橋に行って来ました」 「ナンとかちゃんとか云う幽霊は出たのか?」 「出ました。でも僕は原チャリで行ったので速度が遅くて、飛び出してきた子供の幽霊を避けても事故を起こさずに済んだのです」 「枯れ柳か何かだったか?」 「タヌキでした」 「タヌキのイタズラか」 日本平パークウェイには、自然保護の為に、タヌキの通り道と云うガードレールの切り込みがあるんです。その切り込みに一匹のタヌキが死んでいて、幽霊の子供は其のタヌキの死体に入って行きました」 「不思議な事があるものだな。車に轢かれて死んだタヌキが化かした怪異だろうか」 「イイエ、違います。化かしていたのは、子タヌキです。タヌキの死体に手を合わせると、看板の裏から5匹の子タヌキが現れて……」 「呪いをかけて行ったのか?」 「ドングリをくれました。」 「…で?」 「美味しかったです」 「タヌキが?」 「ドングリがです」 「死んだ親タヌキに手を合わせてくれたお礼にくれたドングリだ。感謝の気持ちが込もっている。だから美味しかったのだろう」 「生のドングリを食べたので、ちょっとお腹の調子が悪いのです」 「また、心霊スポットに行く時は誘ってくれ。俺も怪異に遭遇したい」         了
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