12月1日

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12月1日

本館5階の女子トイレ。 上履きが並んでいないのを確認して、手洗い場の鏡を覗き込んだ。 上がった息を抑えることに集中しながら、唇にリップを塗りつける。 血色良く魅せる、チェリーピンク。 バレたら没収モノだから、授業までには落としておかないと。 呼吸が落ち着いてきても、どこか浮き足立っているのがわかる。 心臓が、いつになく忙しい。 それさえも心地いいのは、自信があるから、ではない。 正直、勝率は5割にも満たないだろう。 でも、と顔を上げる。 ほんのり色づいた唇に、満足した。 次は、髪の毛。 念入りにセットしてきただけあって、指だけで整えられそうだ。 時間割に体育がない日を選んで、正解だった。 時間はスマホではなく、腕時計で確認する。 やばっ。もう時間じゃん。 LINE、DM、イマドキ告白なんて日常のメッセージに過ぎないのだろう。 内容よりタイミングとノリの方が重視されて、告白までに距離を詰めることに苦戦するのだ。 クラスメイトがしているような楽しい恋愛ごっこを、いつか自分もしてみたい。 でも、今回は。初めてなのだ。告白するほどの恋は。 初めては、少女漫画や映画みたくわかりやすくてドラマチックな恋をしたい。 ドキドキしながら手紙を書いて。朝早く登校して、下駄箱に手紙を忍ばせる。 『今日の昼休み、本館5階の第3講義室で待ってます』 入ってすぐの机に腰掛けて、時計の秒針を数える。 来てくれたら、いいのにな。 上履きを脱ぎ履きして遊んでいると、足音が近づいてきた。 階段を、上る音だ。 机から下りて、スカートの皺をチェックする。 どうか、彼でありますように。 足音に合わせて、鼓動が大きくなるのを感じた。 一方で、思考は澄み渡っていくという矛盾。 ひどく、神聖なひとときに思えた。 たぶん私、今までの人生の中でいちばん可愛い。 いのちの日
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