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12月9日
軍手は手袋の代わりになれない。通気性抜群の上、ゴミを触ったのを顔に持ってくることなんてできない。
今季最低気温で迎える休日の朝を、夜明けより早く潮風に吹き付けられながら過ごすキチガイなんていないのだ。普通。
「サーファーも寒そうだもんね」
「これだと、海の中の方があったかいのかも」
ジャージのファスナーを上まで閉めて、友人と身を寄せ合う。ゴミ袋を飛ばしてしまわないよう、しっかり握っておく。
「海が綺麗なのはいいことだ。ゴミが集まらないから、私達は帰れないけど」
「なんたる矛盾」
数メートル後方のジャージ達も、風にもだえるように立っている。
委員会活動で地域の清掃ボランティアに参加するはいいものの、景観をウリにしているビーチにはほとんどゴミがない。空き缶ひとつしか入っていないゴミ袋は、手を離すと飛ばされてしまうだろう。
「あっち大変そうだからさ、ゴミ分けてもらおうよ」
前方では、同じ色のジャージが寄って集まってゴミを拾っている。
「『分けてもらう』って、ヘンな言い方ね」
「おこぼれ」を「もらった」おかげで、ゴミ袋はいっぱいになった。ノルマ達成だ。
「みて、きれい」
朝焼けが海面を照らして、輝いている。軍手のままスマホを掲げる友人に、「あとで送って」とだけ答えた。
人々はこれから本格的な朝を迎えるというのに、私の腹時計は昼食を欲している。
はやいとこ家に帰って、あったかいのを食べよう。
「みてあれ、強者」
「え?」
友人が指差していたのは、浜辺でカメラを構える集団だった。海辺とカメラの間に、人がいる。ウエディングフォトだろうか。ベールらしき布地が揺れている。
「きれいだけど、逆光じゃない?」
「センスかもよ」
「ふうん」
しかし、雰囲気が幸せそうではない。花嫁がカメラを偉そうに覗き込んだり、角度やポーズを指示している。カメラマンも花婿も、彼女の言いなりになっている。
「ありゃ、別れるわね。秒読みじゃない?」
「ナニソレ」
「結婚準備で本性が出るオンナって、多いんだから」
「へえ」
胸を張って威張るので、女子高生のアンタが何言ってるのとはツッコめなかった。
後日。
暖房の効いたショッピングモールを歩く。お目当ては、コーヒーショップの新作だ。
「あれ?」
「なになに」
店の隅に並んだ、フリーペーパー。表紙にタレントを使うことも多いので気にして見ているのだが、今回は地元で準備したらしい。
「あ」
海を背景にした、ウエディングフォト。眩しい朝焼けも、冷たい風も、思い出せる。
「あの時の写真...これの撮影だったのね」
怒れる花嫁は、意識の高いモデルだったのだ。
「えー、つまんないの」
「つまんないのって...」
アンタ、何を期待してたのよ。
地球感謝の日
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