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12月10日
彼女の贈り物は、ネクタイと決まっている。
スーツが仕事着なので、ありがたくはあるのだが。
「...これは?」
「いちばん可愛かったのよ、いいでしょ?」
「...うん、ありがとう」
キャラクターもののネクタイなんて、確実にネタじゃないか。
「でも、取引先の部長さんには好評だったんすよね?子供さんが世代だったとかで」
「だけど、恋人からのプレゼントだぞ?奥さんからならともかく」
「えっ、先輩、別れるんすか。優しそうな人なのに」
会社は違えど同じビルで働いている分、プレゼントのネクタイはむげに出来ない。
少々、いや、
「重いんだよ。義務感背負わされてるカンジ」
「そんなもんすか」
答えに詰まったのは、なけなしの良心だ。それでも、息苦しさがなくなったのは、ネクタイを緩めたからではないと思う。
彼女から手渡されたのは、メンズブランドの箱だった。
「ありがとう...?」
しかし、形と重量がネクタイではない。おそるおそる開けた箱の中身は、新品の革ベルトだった。
「傷んでたでしょ。だから、ちょうどいいかなって」
照れくさそうに装いながら、期待するように上目遣いをしてくる。
「うん。ありがとう」
センスが悪いわけではないのだ。ネクタイの色も、ジャケットとの相性は考えられていたわけだし。
唇を重ねながら巡らせる思考は、すぐ有耶無耶になる。
いつになく、相手が大胆だったのだ。
「へえ」
脱ぎ捨てたズボンから、ベルトを抜き出した。にらめっこする表情がつまらなそうなのが、おかしい。
「嫉妬か?」
「まさか」
アンタホントサイテーと、片言で詰られる。言い返す言葉もないので、黙って細い腰を抱き寄せる。
日付が変わる前には終わってしまう逢瀬だ。1秒が惜しい。
「でも彼女さんは先輩のこと、本気みたいっすよ?」
「えっ?」
ほら、と裏地に口づけた。べっとりと、赤くなる。
「名前なんか入れちゃって」
塗り込むように人差し指が円を描くと、刻印が浮き上がってきた。
「こんな男の、どこがいいんだか」
でも取れないね、ザンネン!
ケタケタと笑う悪い口を、本能のままに塞いだ。
ベルトの日
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