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12月11日
壁で身を隠し、気配を殺す。
「若手だけの忘年会もしようって話になったんだけどぉ」
嘘でしょ?忘年会なんて上司に媚びるための場なのに、同年代ばかりで集まって何のメリットがあるの?
暇なの?ボーナスがあるとはいえ、金と時間と精神的に、そこまでの余裕があるっていうの? 仕事しろ。
とにかく、体よく断らねば。同僚の断り方も、参考にさせてもらおう。
「ごめんねー、ここ最近残業続きで、録画したドラマが溜まっててぇ」
「そっかー。板橋ちゃんが来ないのはザンネンだけど、推しは大事だもんね」
「ありがとー。楽しんできてね」
彼女のアイドル好きは有名だ。
だけど、芸能に疎いキャラ設定の私にこの手は使えない。
「俺、金欠なんだわ」
「マジ?」
「今度のボーナスで車買う予定でさ」
自らつまびらかに財布事情を明かすタイプか。申し訳なさを全面に押し出せば相手の理解を得られる、身を削る戦略だ。
貯金派の私はパス。
「この日予定が入ってて」
「そう...」
明らかな予定を述べない場合、8割が嘘だと思っている。
有無を言わせない強さが必要だ。
私の場合、幹事の先輩相手に度胸を発揮できるかが鍵となる。
「片山くんは?」
「あ、いいです」
来たよ!ど真ん中ストレート。
「あいつ、カンジ悪いよな」
反感を買いそうな断り方だが、見ている方としては清々しい。
「やっぱり片山くん、クールビューティー...」
絶対的有利なポジションに立てる確信がないと、発動は難しそうだ。
「みーなーみーちゃーんっ」
私の番が来てしまった。やはり、適当に予定をつくるか?
波風立たせず、穏やかに切り抜けられる断り方...。
「どう?」
シャツの中、汗ばむのがわかる。胃のあたりが、キリキリと痛い。
「...行きます」
「やったあ!」
同僚が飛びついて喜んでくれるのは、アルコールに強く、押しに弱いメンバーが欲しいからだ。面倒な酔っ払いを、体よく押しつけられる。
「...うん、よろしく」
そんなカオするならきっぱり断れよ、という視線を感じる。でもね、私みたいな凡人に嫌われる勇気なんてないんだよ、片山くん。
胃腸の日
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