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12月5日
空気が入らないように。ズレないように。慎重にフィルムを貼り付けていく。
「よし」
上出来。
完成したページをめくるのが、至福のひととき。達成感がハンパじゃない。
「できたか」
マグカップを受け取る。すっかり冬だ。こんなにも手が冷えていたとは。
「うん。いいでしょ」
缶ビールを手にした夫は、何も言わずに向かいの椅子に腰掛けた。
ホットココアも美味しいけれど、私だってビールを飲みたい。羨ましい。
でも今は、ガマン、ガマン。
「そのうち忙しくなって、それどころじゃなくなるんだよ」
アルバムを買ったときにも、同じ事を言われた。
「そんなことないわよ。あの子が家を出るときには、成長記録として持たせるんだから。きっと感謝してくれるわ」
「どうだか。女の子ならともかく、男だからな」
重いだとか邪魔だとか言って、見向きもされないかもしれない。それならお嫁さんを巻き込んでもいいし、自分の老後の楽しみにしたってかまわない。
夫の母が、そうしているように。
「自分の赤ちゃんの時なんて写真でしか見られないんだから、残ってる方がいいんだって」
「そのうち生意気もワガママも言うようになるぞ。写真なんて、いつまで撮らせてくれるか」
「そりゃ、成長に合わせて弁えるわ。入学式と、卒業式。あと運動会と...」
「大仕事だな」
「うんっ」
それも、すごく楽しくて幸せな。
病院で撮った1枚目からまだ1ヶ月しか過ぎていないのに、既に懐かしい。「こどもの成長は早い」を、身に染みて感じる。
「でもこのペースだと、仮に18で家を出るにしても、持たなくないか?」
「えー?」
完成したページは、全体の約3分の1。かなり慎重に厳選したつもりだったのに。
「2冊になると、さすがに実家でお留守番だぞ」
「もー...」
静かに笑う夫は、この町によく似合っている。
赤子を連れてくるのに選んだのは、昼間の賑やかさと夜の静けさだった。夜泣きの心配は尽きないけれど、幸い、ご近所さんには子育て経験者が多かった。
ベビーカーを押して歩いていると、小学生や中学生とすれ違う町だ。この子の成長を思い描くのが楽しくて誇らしくて、ちょっと寂しい。
「寝れるときに休めよ」
「うん」
寝室のベビーベッドを覗き込むと、小さな寝息が聞こえた。暗がりで表情が見えないのは惜しいが、電気をつけて起すわけにもいかない。
「おやすみ」
顔を近づけると、ミルクの甘いにおいがした。
おやすみ、雅哉。
アルバムの日
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