第二話 BLどころか3〇疑惑

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第二話 BLどころか3〇疑惑

 神尾は、怒りのあまり、海遊の存在が目に入らないようだった。一方、海遊の登場に気づいた糸原は、突然、神尾の腕を持ち上げると、こちょこちょ、と脇をくすぐりだし、挙句、うい、と一撃を見舞う。声にならない神尾の悲鳴を海遊は聞いた。本気でくすぐったすぎると人間声も出せないらしい。  うずくまる神尾をよそに、改めて糸原が海遊に向き直る。「……ごめん。ちゃんと謝らせてくれ……。鷺沼さん。すまなかった」  気持ちのいい男は謝罪も気持ちがいい。素直に、……糸原の謝罪を受け入れられる自分がいる。  それでも当惑する海遊を前に糸原が言葉を紡ぐ。「おれは。鷺沼さんの髪ってすごく可愛くていいなぁと思っていて。……だから、縛るのとか、ドライヤーやんないなら勿体ないと思っていて……」  なんだ。それだけ、だったのか。あまりの勘違いに、めまいがする。海遊といえば被害妄想にずっと浸り――。 「いえ。こちらこそ、おとなげなくって申し訳ありませんでした」ぺこりと、海遊も頭を下げた。謝るべきなのは自分だ。「勝手に勘違いして……。てっきり、糸原さんは、わたしの髪形をディスっているものとばかり……」
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